【サムライ #03】龍馬の甥が牧師になったワケ

この記事のポイント

・自由民権運動とキリスト教!?
・苦難の中、神の愛に触れて牧師に
・神の力を現すには「弱さ」を誇れ!

イントロダクション

前回は坂本龍馬を斬った男、今井信郎(のぶお)の回心についてご紹介しましたが、今回は、坂本龍馬の甥である坂本直寛(なおひろ)についてご紹介してまいります。

まずは、直寛とはどういう人物なのか、とくに龍馬との関係について見てから、最初はキリスト教に消極的だった直寛が聖書を信じ、牧師になるまでの経緯に迫ります。

ポイント1:自由民権運動の母体 立志社の若手運動家

龍馬の実の姉である千鶴が直寛(なおひろ)の母です。龍馬が暗殺されたのは、直寛が14歳の時でした。直寛は17歳の時に龍馬の兄にあたる坂本権平の養子になって坂本姓を名乗りました。直寛も、叔父龍馬のように、新しい日本を建て上げようという熱い思いを抱いていました。

直寛は自由民権運動の母体となっていた立志社で若手運動家として活動し、とりわけ、理論と組織面から、政治運動を支えていました。直寛は、当時とても進歩的だった「日本憲法見込案」の起草に参加したことでも知られています。これは、国民の基本的人権や、政府に対する抵抗権、信教の自由などを明示したもので、今でも高く評価されています。

しかし、自由民権運動は1882年以降、政府の弾圧や懐柔により、その勢いを失っていきました。そのような中で、運動はキリスト教と近づいていきます。立志社の活動内容が、政府を正面から攻撃する演説会から、キリスト教演説会へと変化していったことは直寛やその他の指導者たちの回心の影響と考えられています。

ポイント2:まず「社会的に」キリスト教を受容した

直寛は、すぐにキリスト教信仰を受け入れた訳ではありませんでした。彼は、自伝の中で、このように語っています。

「板垣退助伯が欧州視察を終えて帰国し……キリスト教を我が国で広めることは外交政策上もっとも都合が良いだろうと思うようになったが、それでも自分自身がキリスト教を信仰する気持ちはどうしても起きなかった」(土居晴夫『坂本直寛自伝』燦葉出版社)

ところが、1885年、直寛は高知講義所で、キリスト教の洗礼を受けます。直寛は当時の様子も、このように回顧しています。

「私が洗礼を受けたのはおかしなものであった。信仰心は実に薄弱で……私が受洗したのは、福音的に神を信じたのではなく理論的に信じ、社会的にキリスト教を受け入れたのである」

理論的に神を信じたと語った直寛ですが、彼は後に神の愛に触れ、その愛を人々に伝える牧師になるのです。

ポイント3:苦難に感謝し献身!? 弱さを誇った牧師

直寛がクリスチャンになってから、彼の人生は決して順風満帆ではありませんでした。彼は投獄や、家族の不幸、病いなどに苦しみます。

1887年、直寛は明治政府に物申す建白書を提出するために上京し、逮捕されます。そして、石川島監獄に拘禁されました。全てを奪われ、極限状態の中、直寛は神から来る心の平安を経験することになりました。

そこで、高慢にならないように、わたしの肉体に一つのとげが与えられた。それは、高慢にならないように、わたしを打つサタンの使なのである。このことについて、わたしは彼を離れ去らせて下さるようにと、三度も主に祈った。ところが、主が言われた、「わたしの恵みはあなたに対して十分である。わたしの力は弱いところに完全にあらわれる」。それだから、キリストの力がわたしに宿るように、むしろ、喜んで自分の弱さを誇ろう。(コリント人への第二の手紙‬ ‭12:7-9)

直寛は試練を通し、弱い信仰しかなかった自分が、神に近づけたと感謝します。そして政界引退後、46歳で北海道に開拓民として渡り、キリスト教の牧師として活動を始めました。直寛はとりわけ監獄伝道に熱心に取り組み、犯罪者に、人間を罪から救うために十字架にかかったキリストの愛を説き続けました。

まとめ & 次回予告

以上、坂本直寛と聖書の関係について、3つのポイントをご紹介しました。

・まず社会的にキリスト教を受容し、洗礼を受けた
・苦難の中で神の愛を経験し、牧師へ
・パウロも語った、神の力は弱いところに完全にあらわれる

熱い思いを持った政治運動家だった直寛は、理論的に神を信じ、さらに、人生の苦しい時期に神の愛を経験し、ついに神の言葉を力強く語る牧師になりました。パウロが語っているように、まさに弱いところに神の力が完全に表れたのです。

次回は、津田梅子、そして、その父、津田仙と聖書の関係に迫ってまいります。どうぞお楽しみに!

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