【サムライ #02】坂本龍馬を斬った男の回心
この記事のポイント
・龍馬を斬った男は:西郷によって命拾い!
・敗退した武士の子弟に:響いた『聖書』
・忠誠を尽くす相手:藩主からキリストへ
イントロダクション
幕末の志士として人気の高い坂本龍馬。龍馬と関わりがあった人々のうち、聖書によって、人生で大転換を経験した人は少なくありません。
今回は、その一人である、龍馬を斬った男、今井信郎(のぶお)についてご紹介します。
ポイント1:龍馬を斬った男
今井は京都見回り組の隊員で剣の達人でした。京都見回り組とは、幕府の体制を守るために京都の治安維持に当たっていた人たちのことです。新撰組と似ていますが、幕臣だけが、隊員になれたという点で異なります。
今井は入隊から半年で倒幕派粛清の任務を受けました。そして、1867年11月15日の夜、事件が起こります。京都見回り組の7人が、倒幕派の武士たちの隠れ家となっていた醤油販売店を襲撃し、今井を含む3人が、2階で密談をしていた龍馬と中岡慎太郎に切りかかり、二人は絶命しました。
ポイント2:西郷に助けられた暗殺者
西郷隆盛は、龍馬の仲人をつとめたほど、龍馬に近い人物でしたが、龍馬暗殺に関わったと自白した青年の命を奪うのは惜しいと、今井の助命に尽力します。そして、処刑を免れた今井は、敗退した幕府直属の武士たちが謹慎生活を送っていた静岡県で生活することになったのです。
静岡県でキリスト教の活動が始まったのは1871年以降だと言われています。当時キリスト教はまだ禁じられていましたが、宣教師のエドワード・クラークは、日曜に自宅でバイブルクラスを開いていたようです。
その十年以上前から活動していた宣教師のフルベッキと交友のあった岩倉具視や勝海舟らの計らいがあったと言われています。その後、1874年にクラークの後任として派遣されたD・マクドナルド宣教師は学生たちに聖書を教え、その年だけで、幕臣の子弟など11人の若者がキリスト教を信じたそうです。
ポイント3:“没落武士”の新しい主人
しかし、彼らの親世代である旧・幕臣たちは、幕府への忠誠を捨てきれず、幕府が禁じていたキリスト教の浸透を快く思いませんでした。このような中、今井は宣教師を殺害するよう、斬り込み隊長に選ばれたのです。
今井はその任に着く前に、キリスト教の教典を読んでみようと考えます。ところが、聖書を読んだ今井は、宣教師の暗殺を思いとどまりました。「こんな子どもだましのつまらない内容のために、わざわざ刀をけがすこともない」。
ある時、今井は茶の取引のために出かけた横浜で教会を見つけ、批判する材料を得ようとして中に入ります。しかし、そこで日本人牧師の説教を聞いて、聖書の教えが武士にふさわしいものだと知り、驚愕するのです。そして、静岡に戻るとすぐ、教会を訪れて、熱心に聖書を学び、洗礼を受けました。
武士たちは、それまで藩主に命懸けで忠誠を尽くしてきましたが、絶対的な存在を失った没落武士にとって、聖書は、人生の指針となりました。そして、今度は「わたしは道であり、真理であり、命である」と語ったキリストに忠誠を誓い、人生を賭けようと決心したのです。
まとめ & 次回予告
以上、龍馬を斬った今井信郎の波乱の人生と回心のストーリーを3つのポイントに絞ってご紹介しました。
・幕府に忠誠を尽くし、龍馬を暗殺
・西郷の計らいによって思わぬ命拾いをし、静岡へ
・聖書の中に武士の教えを見出し基督に忠誠を誓うことにした(キリストによって命拾い!)
次回は、龍馬の甥である坂本直寛(なおひろ)と聖書の関係に迫ります。どうぞお楽しみに!