【聖書講座 #11】キリスト誕生
この回のポイント
イエス・キリストは、今まで学んできた「メシア預言」の成就として、神が地上に送られた方です。それを示すため、彼は「神の子」として特別な生まれ方をして、神を「父」と呼びました。
それでも、人間の女性から生まれたという点では、私たちと同じであり、30歳まで普通に成長し、洗礼を受け、悪魔の試みに遭われたのです。
キリストが「神であると同時に人でもある」というのは人間的に考えれば矛盾しますが、新約聖書の教えの重要な柱です。
四福音書
今回からは、いよいよ「新約聖書」に入ります。新約聖書の最初の4つの書は「四福音書」と呼ばれ、4人の著者がイエス・キリストの生涯について記したものです。
新約聖書の2番目にある「マルコによる福音書」は、四福音書の中で最も短かく、最初に書かれたとされています。
マタイとルカは、それぞれマルコが記録しなかった事件についても記しました。しかし、これら3つの福音書は共通記事が多いため、「共観福音書」と呼ばれています。
一方、「ヨハネによる福音書」の冒頭では、キリストについて、このように語られています。ヨハネの書いた文書は新約聖書の中に全部で5つありますが、それらの特徴については、この講座の最終回で学ぶ予定です。
イエスの先駆者であるヨハネ誕生の予告
さて、「四福音書」は、いずれもイエスの先駆者であるヨハネという人物について語っています。
今回は、四福音書の中でも、ヨハネについて最も詳しく言及している「ルカによる福音書」から学んでゆきましょう。
ヨハネの父となるザカリヤは祭司でしたが、ある時、天使ガブリエルがザカリヤのもとに現れ、「エリヤの霊と力とを持つ」(ルカ1:17)子供が生まれると予告します。
妻のエリサベツは高齢で子供がありませんでしたが、天使の言葉通り、ほどなく妊娠します。
受胎告知
その半年後、彼女の親戚のマリヤという女性のもとにも、天使ガブリエルが現れます。この時、マリヤはヨセフという人物と婚約中でした。これは「受胎告知」と呼ばれる有名な場面です。(ルカ 1:28-32)
そして天使は、彼女が聖霊によって身ごもる、つまり「処女懐胎」をすると告げます。マリヤは「わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように」と答えました。
そして彼女は祭司ザカリヤの家に行き、同じように妊娠中だったエリサベツと3ヵ月をともに過ごします。そのとき、マリヤが語った言葉は「マリヤ賛歌」として知られています。(ルカ 1:46-55)
ヨハネとイエスの誕生
ほどなくしてエリサベツは男の子を産み、その子はヨハネと名付けられました。
「ルカによる福音書」2章の記事は、イエスの誕生から始まります。当時、大規模な人口調査をせよとの勅令が出され、ヨセフとマリヤは、それまで暮らしていたナザレを離れ、ベツレヘムへと向かいました。
ところが、泊まる部屋がなかったため、彼らは馬小屋を宿とし、そこでイエスが誕生します。
その夜、野宿をしながら羊の番をしていた羊飼いたちにも、不思議なことが起こりました。(ルカ2:9-14)
羊飼いたちはすぐに馬小屋を見つけ、イエスを拝しました。一方、「マタイによる福音書」では、東方の博士たちが星を見て3種類の贈り物を携え、ベツレヘムにやって来たと記しています。
宮詣で
では、ルカによる福音書2章に戻って、話を続けましょう。
イエスはユダヤの風習により、生まれて8日目に割礼を受け、約1か月後に律法の規定に従い(レビ12:2-6)、宮詣でに連れて行かれました。
すると、信仰深いシメオンという高齢の男性と、アンナという高齢の女性が、それぞれ神に感謝をささげ、幼子イエスが「イスラエルに救いをもたらす」ことを語りました。
神を「父」と呼んだイエス
その後、イエスの一家はガリラヤにあるナザレという町で暮らします。そして、イエスが12歳の時に、両親は慣例に従って、イエスをエルサレムの宮に連れて行きました。
ところが、イエスだけがエルサレムに残ったため、両親はイエスを探し出せず、道を引き返します。
そして三日の後に、イエスが宮の中で教師たちのまん中にすわって、彼らの話を聞いたり質問したりしておられるのを見つけた。聞く人々はみな、イエスの賢さやその答に驚嘆していた。両親はこれを見て驚き、そして母が彼に言った、「どうしてこんな事をしてくれたのです。ごらんなさい、おとう様もわたしも心配して、あなたを捜していたのです」。するとイエスは言われた、「どうしてお捜しになったのですか。わたしが自分の父の家にいるはずのことを、ご存じなかったのですか」。(ルカ2:46-49)
神を「父」と呼ぶイエスにとって、宮は「父の家」だったのです。
洗礼者ヨハネが先に活動を開始する
さて、その後のヨセフ一家の暮らしについて、聖書はほとんど何も記していません。他の箇所(マタイ13:55)の記述によれば、父ヨセフは大工で、イエスには何人かの兄弟がいたようです。
そして十数年の歳月が流れ、イエスより半年前に生まれたヨハネが先に活動を開始しました。4つの福音書は全て、イザヤ書40章を引用して、ヨハネの活動を伝えています。
呼ばわる者の声がする、「荒野に主の道を備え、さばくに、われわれの神のために、大路をまっすぐにせよ。もろもろの谷は高くせられ、もろもろの山と丘とは低くせられ、高低のある地は平らになり、険しい所は平地となる。40:5 こうして主の栄光があらわれ、人は皆ともにこれを見る。(イザヤ 40:3-)
彼は人々に悔改めを説き、バプテスマ(洗礼)を施したので、「バプテスマのヨハネ」と呼ばれました。後に登場するイエスの弟子、ヨハネとの混同を避けるためです。
彼は、群衆にむかって「まむしの子らよ」と、激しい口調で悔改めを迫りました。人々は彼こそがメシアではないかと考えましたが、彼は別にキリストが現れると預言しました。(ルカ 3:16)
ほどなくイエスもバプテスマのヨハネから洗礼を受けます。その時のことは、こう記されています。
…天が開けて、聖霊がはとのような姿をとってイエスの上に下り、そして天から声がした、「あなたはわたしの愛する子、わたしの心にかなう者である」。(ルカ 3:21-22)
イエスも宣教を開始する
その後、イエスは荒野に導かれ、40日の間、何も食べずに空腹になったとき、悪魔の試みに遭われます。
悪魔は、「もしあなたが神の子であるなら、この石に、パンになれと命じてごらんなさい」など、イエスを3度、誘惑しますが、イエスは全て聖書の言葉を引用して退けました。悪魔はあらゆる試みをしつくして、一時イエスを離れました。
そして、イエスは御霊の力に満ちあふれてガリラヤへ帰り、宣教活動を開始します。「マルコによる福音書」には、イエスの宣教第一声が記されています。
「時は満ちた、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信ぜよ」。(マルコ 1:15)
この時、イエスは、およそ30歳でした。宣教を始める前のイエスの生涯を「私生涯」と言い、宣教活動開始後は「公生涯」と言います。
この宣教第一声で、イエスは人々に何を伝えたかったのでしょうか。ここで言われている「神の国」の到来こそ、イエスが公生涯を通じて人々に伝えたかったメッセージ(福音)でした。そして、その日の到来を待ち望むためには、悔い改めが必要であることを、イエスは説いたのでした。
次回予告
次回は神の王国実現のためにイエスの弟子となった人々のことから、お話を始めましょう。